平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。東京共同会計事務所のベトナムデスクです。
ベトナム進出に係る様々な税務・法務情報等を提供したいと考え、本メルマガを送らせて頂いております。

今回のテーマは、次の通りです。

1. サプライチェーンの多元化の際にベトナムの経済特区・工業団地の選択
2. 新環境保護法の施行細則の概要

なお、各コラムは執筆者により「寄稿」されたものであり、その文責は執筆されたコラムに限定されるも
のであります 。

サプライチェーンの多元化の際にベトナムの経済特区・工業団地の選択
東京共同会計事務所

ここ数年、コロナの影響によるサプライチェーンの分断は世界、特に製造業に対して多大な影響を与えました。しかし、今回の事をきっかけにして、特定の国に過度に依存すれば、万が一の時に代替供給を探すのが困難だと実感できたのはある意味で貴重な時期でした。この様な状況を背景として、今回はサプライチェーンの多元化をテーマにベトナム、特に経済特区・工業団地等を選択することについて述べさせて頂きます。

1.サプライチェーンの多元化の一環として、中国の工場を閉鎖し、ベトナムへ工場を移す事例

いきなりですが、まず、実際の事例を紹介したいと思います。 先日、2005年にベトナムの工業団地に製造子会社を設立した日系企業にサプライチェーン変更についてお話を伺うことができました。当該企業はすでに中国に工場がありましたが、ベトナムに進出した数年後、販売機能のみを中国に残し、製造機能をベトナムに移動し、中国工場を閉鎖することを決断しました。企業の活動本質から考えると、人手を要する作業が多いので、人件費が重要な決断要素の一つだったそうです。

また、ベトナムの工場で生産を行ったことがきっかけで、ベトナム人の親日感情を感じることができ、ベトナム人が勤勉で、一緒に働きやすいという感想をもったとのことでした。さらにベトナムでは日系企業に対して他国の外資系企業と比べて評判が良いので、労働者を募集する時に応募件数が多くて、大変助かるとのことです。そして、ベトナムの安定的な政治状況も工場移転の決断の要素につながったということです。

2.日本政府からの補助措置を受けて製造業等がベトナムへの移転

新型コロナウイルス感染病の拡大に伴い、日本のサプライチェーンの脆弱性が顕在化したことから、特にアジア地域における生産拠点の多元化等によってサプライチェーンを強靭化し、日ASEAN経済産業協力関係を強化することを目的として、ジェトロは「海外サプライチェーン多元化支援事業」を受託し、この事業の補助事業者を公募しています(※1)。本事業は、採択者の製造設備の新設・増設に必要な機械設備の購入及び備付け等に必要な費用等を補助の対象とし、その補助率は1/2以内(大企業)、又は2/3以内(中小企業)等とのことです。

2020年5月26日の初公募からベトナムを事業実施国として選んだ35会社以上が採択されました。また、2022年1月31日に第5回公募(※2)が開始され、公募締切は2022年3月31日となりますので、ご興味がある企業様は公募内容詳細についてJETROのHP(本稿の注書2)にてご確認ください。

3.ベトナム経済特区・工業団地の魅力

① 法人税の優遇措置の適用可能。
ベトナムの法人税の標準税率は20%ですが、経済特区において法人を設立すれば、15年間にわたり10%の優遇税率で、及び4年間免税かつその後9年間税額半減という規定が定められています。一方、特定の工業団地に設立すれば、2年間免税、その後4年間税額半減という優遇措置もあります。
実は、法人税優遇措置は、奨励分野(教育、ソフトウェア開発、再生可能エネルギー等)、奨励地域(上記の経済特区及び特定工業団地等)、プロジェクトの規模(総資本金が6兆ベトナムドン以上で事業開始年度から4年までに3千人超の従業員がいること等)、及び新投資法61/2020/QH14に基づく社会経済に重大な影響を与える特別優遇のプロジェクト等があります。
そのうち、奨励地域の優遇措置についてですが、当該奨励地域に設立すれば、必ずその地域の優遇措置を受けることができるという点が他の優遇措置と異なります(例えば、奨励分野に係る優遇措置は、場合により優遇措置を受けるための一定の証明書等が必要です)。したがって、この優遇措置は、申請手続きの手間を省略し、コスト等が軽減できると考えられます。

② レンタル工場を提供する経済特区・工業団地に入居すれば、進出の最初フェーズでの多額の資金繰りが不要になる事も考えられます。
工業団地に自社の工場を立ち上げる場合は、土地使用権に係る使用料と建物の建設費等がかかりますが、レンタル工場の場合、それらの費用の代わりに工場レンタル料とレンタル保証金等(経済特区・工業団地開発者等により)が必要となりますが、イニシャルコストは80%程度で抑えられるケースがあるようです。

③ 港などの立地に所在する経済特区の特徴をうまく活用すれば、輸出向け生産に対して物流の時間短縮でき、物流コストも低減可能です。
経済特区を設立するための条件の関係で、現在ほとんどの経済特区は港湾付近に設立されています。この良い立地を活用すれば、輸出向けの生産・加工活動はより効率的です。また、経済特区は国の主要な交通ルートへの接続も法律上求められるので、国内向けの販売需要があれば、国内への運送も便利です。

④ その他、特に経済特区・工業団地に関連するものではないですが、次のポイントを挙げられます。
まず、(i) 日系企業がベトナムに「輸出加工企業」の形態で子会社を設立すれば、輸出入関税と付加価値税の適用対象外となり、キャッシュフローの改善に資します。(ii) ベトナム子会社の利益を配当の形で日本に吸い上げる際にベトナムでは源泉税がありません(中国10%、タイ10%(※3)なので、税務コストを削減できます)。
そして、(iii) ベトナムは日本、EU、中国、ASEAN等の二国間あるいは多国間FTA・EPAを幅広く締結していますので、FTA/EPA条件を満たすベトナムで生産した物品について関税を削減することができ、事業成績の向上につながると考えられます。 (iv) 近隣の国と比べると、人件費が比較的安いので、生産コストが削減可能です。 (v)ベトナム国内市場の規模は、日本だけでなく海外からの投資が増える状況ですので、ベトナムで生産する産品は輸出に加えて国内工場等に提供(「地産地消」)する機会が増えることも考えられます。

(※1) 令和2年度第3次補正予算「海外サプライチェーン多元化⽀援事業」に係る事務局の受託について | 海外サプライチェーン多元化等支援事業 – ジェトロのサービス – ジェトロ (jetro.go.jp); 海外サプライチェーン多元化等支援事業 | ジェトロのサービス – ジェトロ (jetro.go.jp)
(※2) 第五回公募(設備導⼊補助型)の公募開始について | 海外サプライチェーン多元化等支援事業 – ジェトロのサービス – ジェトロ (jetro.go.jp);
(※3) https://taxsummaries.pwc.com/thailand; https://taxsummaries.pwc.com/peoples-republic-of-china

「寄稿」新環境保護法の施行細則の概要
弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所(https://uryuitoga.com/

1.初めに

2020年環境保護法(Law No. 72/2020/QH14、以下「環境保護法」という。)が2022年1月1日より施行されているところ、環境保護法のいくつかの条文の詳細を規定する議定(Decree No. 08/2022/ND-CP、以下「施行細則」という。)が2022年1月10日に制定され、現在効力を有している(施行細則第169条第1項)。同施行細則には、ベトナムで事業を行うに当たり大きな影響を及ぼし得る内容が含まれている。そこで、本稿において紙面の許す限り、新法における若干の改正点を取り上げたい。

2.使い捨てプラスチック製品等の生産及び輸入の停止

使い捨てプラスチック製品とは、「ブラスチック成分を有するトレイ、食品容器、食器、箸、グラス、コップ、ナイフ、スプーン、フォーク、ストロー、その他飲食用具で、環境に廃棄する前に一度使用することを主目的として設計され、市場に出されている各製品(交換不可能な接合製品を除く)」と定義されている(施行細則第3条第14号)ところ、施行細則は一定のロードマップに従い、2030年12月31日以降、使い捨てプラスチック製品等の生産及び輸入を停止することを求めている(施行細則第64条各項)。

ロードマップとして規定されている内容は以下のとおりであり、輸入禁止まで一定の期間が空いており、一定の例外が設けられてはいるものの、使い捨てプラスチック製品等の生産及び輸入事業を実施している場合には、かなりの影響を受けることが予想される。各実施時点に向け適切な準備を早めに進めるよう留意されたい。

2026年 1 月 1 日以降、輸出するための生産又は市場に売り出す製品、商品を梱包するための生産、輸入の場合を除き、寸法が 50 cm x 50 cm 未満、厚さが 50 μ m 未満の非生分解性ビニール袋の生産及び輸入をしない。
使い捨てプラスチック製品及び非生分解性プラスチック包装を生産及び輸入する組織及び個人は、施行細則の規定に従って、リサイクル及び処理する責任を負う。
使い捨てプラスチック製品、非生分解性プラスチック包装、マイクロプラスチックを含む製品及び商品の生産及び輸入を徐々に削減する。 2030 年 12 月 31 日以降、輸出のための生産の場合及び市場に売り出す製品又は商品を梱包するための非生分解性プラスチック包装の生産又は輸入の場合を除き、使い捨てプラスチック製品(ベトナムのエコラベルで認定された製品を除く)、非生分解性プラスチック包装(非分解性ビニール袋、発泡スチロールプラスチック包装、食品容器を含む)及びマイクロプラスチックを含む製品、商品の生産及び輸出を停止する。
省級人民委員会は、規定を施行し、プラスチック廃棄物管理活動の展開を組織する。2025 年以降は、非生分解性プラスチック包装を有する製品及び商品を除き、商業センター、スーパーマーケット、ホテル、観光地において、使い捨てプラスチック製品、非生分解性プラスチック包装(分解性ビニール袋、発泡スチロールプラスチック包装、食品容器を含む)を流通及び使用しない。当該地域で、使い捨てプラスチック製品及び非生分解性プラスチック包装の生産単位の精査及び検査を組織する。

3.生産・輸入をする組織又は個人のリサイクル責任

環境保護法第54条第1項は、一定の場合を除き、製品及び包装を生産又は輸入をする組織又は個人が、強制的なリサイクル率及び規格に従ってリサイクルを実施しなければならない旨規定していたところ、施行細則において、対象となる製品及びリサイクル率が具体的に規定された(施行細則第77条第1項、第78条第2項、付録22)。

リサイクル率の適用開始時期は、製品ごとに異なっている。包装及びバッテリー製品、潤滑油、タイヤは2024年1月1日から、電化製品は2025年1月1日から、交通手段は2027年1月1日からとなっており(施行細則第77条第4項)、製品によっては最短で2年後には開始する。リサイクル率は3年ごとに政府首相により段階的に調整され得るとされており(施行細則第78条第2項、第5項)、適用開始後も動向を注視する必要がある。

リサイクルの形式には、(a)リサイクルの実施及び(b)ベトナム環境保護基金への財政的拠出がある(環境保護法第54条第2項各号)。リサイクルが困難又は収集及び処理が困難な有害物質を含む製品又は包装を生産又は輸入する場合には、(b)を選択しなければならない(環境保護法第55条第1項)。(b)の拠出金額は、リサイクル率(%)×製品及び包装の量(kg)×リサイクル費用(VND/kg)で算出される(施行細則第81条第1項)。

他方、(a)を選択する場合には、(i)自己実施、(ii)リサイクル実施主体を雇う手法、(iii)リサイクルの実施を組織するための中間組織への委任、(iv)これらの方法を組み合わせる手法のいずれかに従ってリサイクルを実施する(施行細則第79条第2項各号)。この場合には、毎年3月31日までに、リサイクル計画を登録し、前年のリサイクル結果を天然資源環境省に報告しなければならない(環境保護法第54条第3項、施行細則第80条第1項、第4項)。

実際上は、(b)の手法の方が簡便と思われるが、リサイクル費用がどの金額に設定されるかは各製品又は包装によるため、場合によっては(a)の方が軽い負担で済むことも考えられる。いずれにしても各実施時点に向け適切な準備を早めに進めるよう留意されたい。

4.終わりに

今回取り上げた改正点以外にも、所定の製品又は包装の製造者及び輸入者のベトナム環境基金への資金拠出(施行細則第83条第1項、第3項)などの改正点が他にもあり、今回の施行細則が与える事業者側への影響は大きいものと思われる。また、開始直後は混乱や担当者ごとに異なった対応がなされることや、今回の新制度の成否によっては、規制の変更及び規制の追加が今後なされることも予想される。そのため、環境法令についても、皆様がベトナムに進出し事業運営する際には、ベトナムでの最新の実務状況を十分に把握することが望ましいといえる。