平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。東京共同会計事務所のベトナムデスクです。
日本からベトナムに進出している企業が増える傾向の中、東京共同会計事務所では、ベトナム進出に係る様々な情報を提供したいと考え、本メルマガを送らせて頂いております。

今回のテーマは、次の通りです。

1. デジタル課税とミニマムタックスという新しい国際課税ルールとベトナム
2. 取引先の減産対応による休業時の賃金

なお、各コラムは執筆者により「寄稿」されたものであり、その文責は執筆されたコラムに
限定されるものであります。

デジタル課税とミニマムタックスという新しい国際課税ルールとベトナム
東京共同会計事務所

2021年10月8日に経済協力開発機構(OECD)はデジタル課税とミニマムタックスという国際税務の新しい課税ルール(Two-Pillar Solution)について136か国・地域が参加し、2023年に実施を目指して合意したと発表しました。2021年11月4日の時点では、参加者(※1)は日本・米国・欧州等の主要国の他、シンガポール、香港、タイ、ベトナム等を含みます。今回は、ベトナムに係る投資・事業活動をしている日本企業に、この新しい国際ルールがどんな影響を及ぼすのか、ベトナム側からの立場を述べたいと思います。

第1の柱

現在の国際課税の原則では、企業が外国で事業を行っている場合でも恒久的施設(以下PE)がなければその国で事業所得に課税できないため、インターネットを通じてサービスを提供するなどした場合に市場国で課税できないという問題がありました。そこで、この問題に対処するため、PEがない場合でも、市場国で利益を得ている外国企業に対しての課税権をその国に与えることを検討してきたのが第1の柱です。

全世界売上高が200億ユーロ(およそ2.6兆円)超で、税引き前の利益率が10%超の多国籍企業を適用の対象とし、売上高の10%を超える部分の利益(残余利益)の25%を多国籍企業のユーザー・顧客が所在している国・地域に一定のルールに基づき配分されることになります。なお、適用対象となる売上高の基準は、本合意実施から7年後に100億ユーロに引き下げられる見込みです。また、現時点では、第1の柱の適用対象はGAFA(Google, Apple, Meta (旧Facebook), Amazon)等の100近くの世界の最大手の多国籍企業のみになると見込まれます。

この規定により現在一部の国で導入されているDigital Services Tax或いは同様の措置を撤廃することとなりますが、二重課税が発生する場合(配分された利益に対して居住地国およびユーザー地国が同時に課税)には、最終親会社の所在地国で所得免除又は税額控除などの方法により調整が行われることが想定されています。

この新課税権により市場国に配分される利益の算出例は次の様になります。 ある日本の多国籍企業がベトナムを含む20か国・地域で事業活動を行い、300億ユーロの全世界売上、かつ60億ユーロの税引き前の利益があるとします。この場合、税引き前の利益率は20%(60億/300億)なので、上記の利益率10%を超え、その60億の利益のうち、売上高10%の超過する部分である30億(300億x(20%-10%))の25%、いわゆる7.5億(30億x25%)が事業活動している20か国・地域(一定限度以上の収益を得ている市場国と仮定)に配分されることになります。

ベトナムに係る投資・事業活動へのインパクト

ベトナム国内法ではベトナムにPEがあるか否かを問わずに、ベトナムにおいて所得が発生・取得する外国組織はベトナムの外国契約者税が適用されます。ただし、ベトナムが締結している租税条約に基づき(事業所得の場合)PEがなければ、ベトナムにて免税とすることができます。また、2020年7月1日に発効した税務管理法の幾つの条項をガイダンスする通達No.80/2021/TT-BTCに基づき、ベトナムにおいてPEを有しない外国プロバイダーが提供する電子取引・電子プラットフォーム経由で行った事業活動に係る税務管理措置を以前より詳細な規定とすることを定めました。この動向から見ると、ベトナム政府はデジタル取引の課税の強化する方向性だと考えられます。

今回の新しい配分ルールは、ある意味政策面で、ベトナム政府の望んでいる方向であり、ベトナムはユーザー・顧客が所在している国であることを根拠として多国籍企業の利益の一部の配分を受け取ることができるようになります(ちなみに、ベトナムの現行の国内法では上記のような売上基準を設けていないため、ある意味で現在のベトナム国内法による適用対象は第1の柱のルールより幅広いと考えられます)。また、配分方法は、現行ベトナム国内法に基づくものではなく、合意したルールに沿って行うこととなるので、配分方法の詳細については今後の議論となります。そして、7年後に多国籍企業の売上高基準額が引き下げられる可能性があるので、適用対象の多国籍企業が現在の100社より広げられ、ベトナムへの配分が増える(ベトナム税収の増加に資する)こともありえます。

第2の柱

第2の柱は、外資誘致のための法人税率の引き下げや優遇税制の導入競争に歯止めをかけるためのルールとなるミニマムタックスです。これは、多国籍企業の進出先国での法人税の実効税率が最低税率の15%を下回る場合に上乗せ課税額を最終親会社に合算して課税する制度となります。今回の合意では、この適用対象は年間売上高が7.5億ユーロ(およそ974億円)超の多国籍企業とされていますが、一定規模以下の企業は適用免除とされており、また、一定の実体を伴う事業についての控除額も設けられるとされています。

この所得合算ルールの計算を単純な例で示すと、ある日本企業の年間売上高が10億ユーロであり、ベトナムに投資する際に法人税の優遇税率10%で課税されていることとします。その場合、当該日本企業企業は、ベトナム法人税の税率と最低税率の差である5%(15%-10%)分の所得が日本において追加課税されることとなります。

ベトナムに係る投資・事業活動へのインパクト

ベトナムの標準法人税率が20%ですが、外国投資家の投資促進のために複数の法人税の優遇措置、例えば10%税率で15年間にわたり適用、4年間免税及び9年間税額の半減、2年間免税かつ4年間税額半減等を設けているので、実効税率が15%未満になるケースがあります。この制度が導入された場合、その優遇税率と最低税率の差額は親会社で課税されることになり、日本企業がベトナムに投資する際の法人税の減免制度のメリットを充分に活用できなくなる可能性が考えられます。

ただし、第2の柱の適用対象の多国籍企業の年間売上高を7.5億ユーロ超と想定していますので、その基準額未満の多国籍企業は適用対象から外れるものと思われます。また、OECDが発表した声明(※2)では、工場に投資する等のような実体があるビジネスに対して有形資産・人件費の一定額の所得控除額が認められるというカーブアウトが含まれており、ベトナムを生産拠点とし優遇措置を適用しながら、そのカーブアウト規定を有効に活用すれば、第2の柱のインパクトは抑えられる可能性があります。この点について今後公表される国内法のモデル規則などの確認が必要です。その他、投資決定する際には、税務だけでなく、人件費・市場規模等の要素を総合判断する必要がありますので第2の柱のベトナムへの投資活動への影響は限定的だと考えられます。

なお、ベトナム政府はこの制度の導入について近隣国の対応の様子をみながら、その導入のインパクトを検討し、国内法の整備を準備しているとのことなので、最新情報については、今後も本ニュースレターでお届けしたいと思います。
※本稿の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり、東京共同会計事務所の公式見解ではありません。
(※1)https://www.oecd.org/tax/beps/oecd-g20-inclusive-framework-members-joining-statement-on-two-pillar-solution-to-address-tax-challenges-arising-from-digitalisation-october-2021.pdf
(※2)https://www.oecd.org/tax/beps/brochure two pillar solution to address the
tax challenges arising from the digitalisation of the economy october 2021.pdf

「寄稿」取引先の減産対応による休業時の賃金
弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所(https://uryuitoga.com/

1.初めに

休業時の賃金については、2019年労働法(Law No. 45/2019/QH14、以下「労働法」という。)第99条各号が規定しており、休業が生じた事情ごとに、それぞれ以下のように取り扱うものとされている(以下、第1号ないし第3号をそれぞれ(a)、(b)、(c)と記載する。)。

(a)使用者の落ち度による場合(第1 号)労働契約に従った賃金金額
(b)労働者の落ち度による場合(第2 号) 賃金は支払われない
(c)①使用者の落ち度によらない、②停電、断水、自然災害、火災、危険な疫病、権限を有する国家機関の要求に従った損害、活動場所の移動による又は経済的理由による場合(第 3 号)
※「経済的理由」とは、経済恐慌若しくは衰退又は経済の再編若しくは国際的約束の実施の場合の国家の政策若しくは法令の実施をいう旨の規定がある(労働法第 42 条第 2 項各号)
使用者と労働者との合意による金額(ただし、当初の 14営業日については最低賃金を下回らない金額)

この点、取引先が減産対応を行い、それにより、自社についても減産を要することになった場合には(a)ないし(c)のいずれに該当することになるであろうか。本稿では、取引先の減産対応による自社の休業時の賃金を取り上げたい。

2.取引先の事業計画や生産計画の変更による場合

まず、新型コロナの影響等とは関係なく、単に取引先が事業計画や生産計画を変更したことにより、取引先が減産対応を行った場合を検討する。

この場合の(a)について、取引先の減産対応による休業は、取引先の分散を図るなどの通常行うべき企業努力を怠ったものとして「使用者の落ち度による」ものとも考えられるが、他方で、自社のコントロール可能な範囲外で生じたものであることを強調すると「使用者の落ち度による」とはいえないとも考えられる。即ち、(a)に該当するか否かは、単純に判断はできないことになる。次に、(b)については、労働者の落ち度によるものではないから該当しない。最後に、(c)については、①は上述のとおり、「使用者の落ち度による」ものなのか否か単純に判断はできないが、少なくとも同時に満たす必要がある②の中に、この場合における取引先の減産対応による自社の休業において該当するものは見当たらない。即ち、(c)にも該当しない。

この点、労働傷病兵社会問題局(以下「労働当局」という。)に匿名でのヒアリングを実施したところ、(a)に該当することを前提とする回答であった。これは、前述のとおり、この場合の減産対応による自社の休業は、取引先の分散を図るなどの通常行うべき企業努力を怠ったものとして使用者の落ち度によるとの考えによるものと思われる。このように少なくとも労働当局としては、取引先の減産対応による休業であっても、使用者の落ち度によるものとして考えているようであり、実際の対応としても、(a)に従った休業時の賃金を支払うのが安全かと思われる。

3.新型コロナの影響による場合

それでは、取引先の減産対応の原因が新型コロナの影響による場合にはどうなるであろうか。これについては、労働傷病兵社会問題省の公文書No. 264/QHLDTL-TL(以下「本件公文書」という。)に関連する規定がある。

本件公文書は、新型コロナの影響による休業において、(c)に従って休業中の減額した賃金を支払うことができる場合を、新型コロナの直接的な影響を受けて休業する場合としている。具体的には、(i)当局の要請により労働者が隔離された場合、(ii)当局の要請により職場又は居住所が閉鎖された場合、(iii)当局の要請により疫病予防のため企業又は企業の部門が休業しなければならない場合、(iv)使用者又は同じ企業若しくは当該企業の部門のその他の労働者が隔離期間にあること若しくは就業に戻っていないことにより、労働者が休業しなければならない場合には、(c)に従って休業中の減額した賃金を支払うことができるとする。

もっとも、新型コロナを原因とする取引先の減産対応による自社の休業が、新型コロナの直接的な影響を受けたものといえるかは、必ずしも明確ではない。

そこで、新型コロナを原因とする取引先の減産対応による自社の休業時の賃金について、労働当局への匿名ヒアリングを実施したところ、(c)に該当することを前提とする回答であり、少なくとも労働当局としては、新型コロナの直接的な影響を受けて休業する場合を広く捉え、新型コロナを原因とする取引先の減産対応による自社の休業もこれに含まれると考えているものと思われる。これを踏まえると、実際の対応としても、(c)に従った休業時の賃金の賃金を支払うことになるかと思われる。

4.終わりに

以上より、上述の当局の見解を前提にすれ ば、取引先の減産対応が、新型コロナの影響等とは関係なく、単に取引先が事業計画や生産計画を変更したために生じた場合には、 (a)に従った休業時の賃金の賃金を、新型コロナの影響により生じたものであれば(c) に従った休業時の賃金の賃金を支払うことになる。もっとも、法令解釈は各労働当局により異なる得るため、実際問題となる場合には、管轄する労働当局に確認するのがより安全と思われる。