平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。東京共同会計事務所のベトナムデスクです。
ベトナム進出に係る様々な税務・法務情報等を提供したいと考え、本メルマガを送らせて頂いております。
今回のテーマは、次の通りです。
1. ベトナムへの出張者・出向者に関する現地個人所得税の概要(第2回)
2. ベトナムの広告法の概要
3. ベトナム投資には、主体的かつ先見的なリスクマネジメントの考え方が重要
なお、各コラムは執筆者により「寄稿」されたものであり、その文責は執筆されたコラムに限定されています。
ベトナムへの出張者・出向者に関する現地個人所得税の概要(第2回)
東京共同会計事務所
前回のNewsletterでは、ベトナムの子会社に従業員が出張・出向する場合に発生するベトナムでの現地個人所得税の問題をとりあげましたが、今回は短期出張者とベトナム現地法人(子会社等)役員に関する現地個人所得税の具体的な取り扱いについて解説します。
ベトナムへ短期間出張する従業員がベトナム税制上の非居住者として取り扱われる要件を満たしている場合は、原則当該短期出張者が現地で勤務することで発生する所得に対して20%の税率で現地個人所得税が課税されています。
例えばベトナムに年間30日出張した場合で、出張者の給与が日本の親会社からのみ支給される時のベトナムにおける課税所得の基本的計算は、下記のようになります。
上記計算式で算出された課税所得金額について20%の税率で現地個人所得税が課税されることとなります。これは、給与所得者に対して課税できるのは、その人が働いた国(所得源泉地国)であるという国際的課税の原則があるからです。
ただし日本が締結している多くの租税条約では「短期滞在者免税」という、滞在期間が短期間である等の一定の要件を満たす場合は、所得源泉地国での給与への課税が免除される制度が設けられています。日越租税条約では、以下の三つの条件すべてを満たせば、所得源泉地国であるベトナムでの20%の課税が免除されることとされています。
- 報酬の受領者(日本人の出張者)が当該暦年を通じて合計183日を超えない期間、当該他方の締約国内(ベトナム)に滞在すること。
- 報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者(日本企業)またはこれに代わる者から支払われるものであること。
- 報酬が雇用者の当該他方の締約国内(ベトナム)に有する恒久的施設または固定的施設によって負担されるものでないこと。
なお、実務では、企業内の報酬負担のルールなどにより条件(b)と(c)を満たさないことも考えられますので注意が必要です。また、租税条約の適用を受けるには、所定の手続きが必要ということにもご留意ください。
ところが、ベトナムへの短期出張者が一般の従業員ではなく、ベトナム現地法人の役員である場合の現地個人所得税の取り扱いは異なる可能性があります。その役員がベトナム税法上の非居住者の要件を満たす場合は、現地で勤務することにより発生する所得部分に限らずベトナム現地法人の役員として得る報酬全額に対して20%の税率で現地個人所得税が課税されます。ベトナム国内において勤務が行われたものを国内源泉所得として課税する一般の従業員とは、取り扱いが異なるので留意が必要です。これは、役員としての役務については、その職務の性質を勘案し所得の源泉地を実際の役務提供地国に限定することは妥当でないと考えるのが国際的課税の原則であるからです。
また、日越租税条約では、日本の居住者がベトナム現地法人の役員の資格で取得する役員報酬に対しては、ベトナムで租税を課すことができるとされています。したがって、日越租税条約の適用を受けた場合でも、その短期出張者のベトナム現地法人の役員報酬全額についてはベトナムにおいて20%で現地個人所得税が課税されることとなります。なお、当該役員が日本の居住者であり、日本においてもベトナム現地法人の役員報酬が課税されることとなりますので、二重課税が発生する可能性があります。このような場合、日本では海外で得た所得に対してかかる税金に関して、原則として外国税額控除の対象になりますので、手続きのためにベトナムで納税証明書を取得しておくことを推奨します。
以上がベトナムへの短期出張者とベトナム現地法人役員に対する、現地個人所得税の基本的な解説となります。次回はベトナム子会社への出向者に対するベトナムでの現地個人所得税の具体的な取り扱いについて解説したいと思います。
「寄稿」ベトナムの広告法の概要
弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所(https://uryuitoga.com/)
1. はじめに
ベトナム市場への進出等を検討している日本企業も多いものと考えられるところ、ベトナム人顧客を対象とした広告等のマーケティング施策を検討するに当たり、ベトナムの広告に関する規制につき関心を抱いている日本企業も一定数いるものと思われます。そこで、本稿では、紙面の許す限り、ベトナムの広告法(※1)の概要を簡単に取り上げます。
なお、広告については、本稿で取り上げる広告法のほか、刑法(※2)や商法(※3)等にも一定の規制があるため、広告を行うに当たっては、これらの規制の確認も必要となり得る点ご留意ください。
2. 外資規制の概要
広告法上、ベトナムで活動する外国の組織・個人は、広告法の規定に従いベトナムで自身の製品、物品及びサービスに関し広告活動を実施できますが(広告法第39条第1項)、ベトナムで活動していない外国の組織・個人は、ベトナムで自身の製品、物品及びサービスに関し広告活動を実施したい場合には、ベトナムの広告サービス事業者に依頼する必要があります(同条第2項)。この「ベトナムで活動する」については、例えば、ベトナムで現地法人を設立して事業活動を実施しているような場合はこれに該当するものと考えられますが、広告法上、「ベトナムで活動する」の判断基準に関する規定はないため、例えば、ベトナムの現地拠点はないものの、ベトナムで何らかの活動を行っているような場合に該当するか否かは明確ではないようには思われます。
また、広告法上、外国の組織・個人は、ベトナムの広告サービス事業者との①合弁会社の設立又は②事業協力契約(BCC契約)を通じてベトナムで広告活動を実施することも可能とされており(広告法第40条第1項)、他の規定も併せ踏まえると、広告法上は、ベトナムで自社の製品、物品及びサービス以外の広告活動を実施するには、ベトナムの広告サービス事業者との合弁会社の設立又は事業協力契約(BCC契約)を通じて実施する必要があります。なお、国際条約であり日本及びベトナムが加盟しているCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)では、加盟国である日本企業及び/又は日系企業がベトナムで広告活動を実施するにあたっては、ベトナム国内の内資事業者と同じ条件が課されるのみで、上記外資規制は課されないこととなっています。但し、実務上は、当局から上記外資規制を前提とした対応がなされることが多いと思われることには留意が必要と思われます。
さらに、広告法上、外国広告企業は、当局から許可証を取得した上で、ベトナムで駐在員事務所を設立することも可能です(広告法第41条第1項、第2項)。但し、活動範囲は、広告の促進に限定されており、広告サービス事業を直接実施してはならないとされていることにはご留意ください(同条第3項)。
3. 共通して適用される規定
広告法上、製品、物品及びサービスを問わず共通して適用される規制があり、主要なものとしては、例えば、以下のものがあります。
(1) 広告禁止製品、物品及びサービス
一定の製品、物品及びサービスについては広告を行うことが禁止されており、具体的には、(i)法令の規定に従った事業禁止物品・サービス(例えば薬物等)、(ii)煙草、(iii)アルコール濃度15度以上の酒類、(iv)24か月未満の幼児用の母乳代替乳製品、6か月未満の幼児用の栄養補助製品;哺乳瓶及び哺乳瓶の乳頭、(v)処方薬及び非処方薬であるが、権限を有する国家機関により使用制限又は医師の監察を用いることを奨励されている薬、(vi)性的な性質を有する各種製品・物品、(vii)武器、爆発物資、補助工具、暴力を扇動する性質を有する各種製品、物品、(viii)実際に発生した場合に、政府により規定されるその他広告禁止製品、物品及びサービスの広告を行うことが禁止されています(広告法第7条)。
そのため、ベトナムではこれらの製品、物品及びサービスの広告を行うことができない点にはご留意下さい。
(2) 禁止行為
広告法上、一定の禁止行為が規定されており(広告法第8条。全16行為)、このうち、特に重要と思われるものを列挙すると以下のとおりです。そのため、ベトナムで広告を行う場合にはこれらに該当しないように留意する必要があります。
- 法律で認められている場合を除き、当該個人の同意を得ずに、個人の画像、発言又は文章を使用する広告(同条第8号)
- 製品、物品及びサービスの事業をする組織・個人の製品、物品及びサービスの経営可能性及び供給可能性に関し;登録又は公開された製品、物品及びサービスの数量、品質、価格、効用、デザイン、包装、商標、生産地、種別、サービス方法又は保証期間に関し不正確に又は混乱を生じさせる広告(同条第9号)
- 自身の製品、物品及びサービスの価格、品質、使用効果を他の組織・個人の同種の製品、物品及びサービスの価格、品質、使用効果を直接比較する方法を使用する広告(同条第10号)
- 文化スポーツ観光省の規定に従った証明する合法的な資料を有さずに、「一番」「唯一」「最も良い」「最高」又は同様の意味を有する用語を使用する広告(同条第11号)
(3) 外国語使用に関する規制
以下の場合を除いて、広告製品にはベトナム語の表示内容を有さなければならないものとされています(広告法第18条第1項各号)。
- 外国語での物品の商標、標語、ブランド及び個別名又はベトナム語に代えることができない国際化された用語
- ベトナム少数民族の言語又は外国語で出版することが許可された書籍、新聞、電子ウェブページ及び出版物、並びにベトナム少数民族の言語又は外国語によるラジオ及びテレビ番組
また、同一の広告製品上にベトナム語と外国語の両方を使用する場合、外国語の文字のサイズはベトナム語の文字のサイズの4分の3を越えてはならず、ベトナム語の文字の下に配置しなければならないこと、及びラジオ、テレビ又は視聴覚メディアで放送される場合、外国語の前にベトナム語が読まれなければならないとの規制にも留意が必要と思われます(同条第2項)。
4. 終わりに
上記規制のほか、一定の特別な製品、物品及びサービス(化粧品等)に適用される規制(広告法第20条第4項各号)、広告手段(新聞、印刷物、看板等)に応じた規制(広告法第21条ないし第38条)等があることにはご留意ください。
また、広告法の規定内容については、下位法令(広告法のいくつかの条項の施行の詳細を規定する議定(以下「Decree 181」といいます。)(※4)、広告法及びDecree 181のいくつかの条項の詳細を規定し実施を案内する通知(※5)等)に具体的な内容が規定されているものもあるため、ベトナムで広告を行う場合にはこれらの下位法令も確認する必要があります。
さらに、ベトナム社会主義共和国電子情報ポータルの2024年8月5日付の記事によると、越境プラットフォーム等での広告活動を管理すべく広告法の一部を修正補充する法案を作成中であり、2024年10月の国会に提出予定であるとのことであり(※6)、今後の動向には引き続き注視するのが望ましいと思われます。
※1:Law No. 16/2012/QH13(Law No. 35/2018/QH14により修正補充)
※2:Law No. 100/2015/QH13(Law No. 12/2017/QH14により修正補充)
※3:Law No. 36/2005/QH11(Law No. 05/2017/QH14、Law No. 44/2019/QH14により修正補充)
※4:Decree No. 181/2013/ND-CP(Decree No. 54/2017/ND-CP、Decree No. 123/2018/ND-CP、Decree No. 11/2019/ND-CP、Decree No. 70/2021/ND-CP、Decree No. 98/2021/ND-CP、Decree No. 96/2023/ND-CPにより修正補充)
※5:Circular No. 10/2013/TT-BVHTTDL(Circular No. 35/2018/TT-BVHTTDLにより修正補充)
※6:https://quochoi.vn/hoatdongcuaquochoi/cackyhopquochoi/quochoikhoaXIII/Pages/danh-sach-ky-hop.aspx?ItemID=88407&CategoryId=0
「寄稿」ベトナム投資には、主体的かつ先見的なリスクマネジメントの考え方が重要
シーパー パートナーズ合同会社(https://www.sipa-partners.com)
近年、日本を含む外国人投資家がベトナムに流入しています。 この東南アジアの国は、中国に代わる魅力的な選択肢を提供しています。 しかし、ベトナムに進出し事業するためには、正確な視点を持ち、多くの不正リスクが存在することを十分理解することが不可欠です。リスクマネジメントに早期的かつ戦略的に投資することで、結果としてトータルのビジネスコストを削減することができます。
複雑な政治環境
ベトナムは若者が多く、1億人を超えて増加を続ける人口が存在し、中間所得層が急成長しています。また、北アジアと東南アジアを繋ぐサプライチェーンの交差点という好立地にあり、政治制度も比較的安定しています。その結果、中国へのサプライチェーンの過度な依存を減らすために多くの企業が採用している、いわゆる「チャイナ+1」戦略に関し、東南アジア諸国連合加盟国の中でも特に恩恵を享受してきました。この傾向は、トランプ前大統領が主導した中国に対する強硬姿勢をバイデン政権が維持し、新型コロナウイルス感染症危機が地政学的緊張を高めた結果、近年ますます加速しています。世界第2位の経済大国への関与を見直そうと多くの投資家が現在実施している「中国デリスク」戦略もベトナムにとって恩恵となっております。
このベトナムへの「ゴールドラッシュ」は、ベトナムの政治・ビジネス環境の複雑さを見過ごすことにつながっております最近のヘッドラインニュースは、この発展途上マーケットの厳しい現実を思い起こさせるものです。2024年7月にベトナム共産党書記長のグエン・フー・チョン氏が逝去したことは、新指導部への政治移行のスピードと円滑さに懸念を抱かせます。政党上層部の政治的不安定性は、政治・官僚システム全体の意思決定に悪影響を及ぼしています。一部の外国人投資家はプロジェクトを保留せざるを得なくなり、ベトナムが中国に代わる効果的な製造サプライチェーン地域になるという約束を実行する能力に対する信頼が揺らいでいます。
蔓延する汚職が投資家にリスクをもたらす
さらに、チョン氏のレガシー政策の一つである大規模な反汚職キャンペーンは、汚職の全体的なレベルには目に見える影響を与えていません。ベトナムは、トランスペアレンシー・インターナショナルによる2023年汚職認識指数において、180カ国中83位にランクされ、コソボ・ブルキナファソ・南アフリカと同順位となりました。 反汚職キャンペーンは、公共サービス部門の職員不足や、官僚による外国投資プロジェクトに関する意思決定不足をもたらし、政治・官僚的意思決定の機能不全を悪化させたと伝えられています。
ベトナムの汚職の規模が実際に明るみとなったのは、2024年4月、国内史上最大の金融詐欺に巻き込まれた国内最大手銀行の一つであるサイゴン商業銀行に対して、中央銀行が240億ドルの救済措置を講じなければならなかった時のことです。その銀行を支配していた女性大富豪で不動産開発業者のチュオン・ミー・ラン氏は、その裁判において、同銀行から440億ドルを横領し、その不正行為を隠蔽するために長年にわたり複数の官僚に賄賂を贈っていたことが明らかになり、死刑が宣告されました。
詐欺リスクと企業の不正行為に注意
投資家は、汚職や贈収賄によるリスクだけでなく、詐欺やそのような企業の不正行為の蔓延にも注意する必要があります。従業員が脆弱なリスク管理体制を悪用して、資産の横領や在庫の窃盗、収益の着服、あるいは従業員報酬の詐欺に関与する可能性があり、社内でこのようなリスクに直面することは珍しくありません。例えば、ある投資家は、人事部門の従業員が、書類上だけ存在する「幽霊従業員」の給与を何年も着服していたことが分かりました。
ベトナムでの詐欺行為には、共謀するサプライヤーやビジネスパートナーが関与することもあります。例えば、ある投資家は、調達部門の従業員が特定の主要サプライヤーのオーナー一族の親戚であることに気づきました。その従業員はサプライヤーにインサイダー情報を提供することで価格の引上げを可能にしました。また、代金を支払ったはずの商品やサービスが、実際にはサプライヤーから届けられなかったというケースもありました。
リスクマネジメントに早期的かつ戦略的に投資しコスト削減と防止を図る
前述の2件の詐欺事例は、給与監査や従業員・サプライチェーンパートナーに対する事前のインテグリティ・デューデリジェンス調査など、費用対効果の高いコンプライアンス対策によって容易に回避することができたはずです。それにも関わらず、適切なリスクマネジメント体制が欠如していたために、投資家に混乱と、法的資源と経営陣の時間を割いて詐欺行為を特定し、終結させ、不正流用された資金の回収を図るための多大なコストの発生をもたらしました。
企業が市場参入、シニアの新規採用または新しい取引関係を検討する際に、予防的リスクマネジメント方針と行動に早期的かつ戦略的に投資することは、実際に詐欺行為やその他の問題が起きてから対応を迫られることで生じるコストの削減と防止に役立ちます。このように主体的かつ先見的なリスクマネジメントの考え方は、ベトナムのような状況においては特に重要となります。
※ローマン・カーヨーは、2021年に東京で設立した戦略的インテリジェンスおよび広報アドバイザリー会社であるSIPAパートナーズ合同会社の代表者です。フランス出身のローマンは、2018年から日本在住で、それ以前は10年以上にわたり東南アジア各国で勤めていました。