平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。東京共同会計事務所のベトナムデスクです。
日本からベトナムに進出している企業が増える傾向の中、東京共同会計事務所では、ベトナム進出に係る様々な情報を提供したいと考え、本メルマガを送らせて頂いております。
今回のテーマは、次の通りです。
1. グエン・ティ・クック ベトナム税理士協会会長 書面インタビュー(後半)
2. 新環境保護法の概要と今後の動向
なお、各コラムは執筆者により「寄稿」されたものであり、その文責は執筆されたコラムに
限定されるものであります。
グエン・ティ・クック ベトナム税理士協会会長 書面インタビュー
東京共同会計事務所
前回のメルマガに引き続き、ベトナム税理士協会の会長であるグエン・ティ・クック氏のインタビューをお届けします。前回は、ベトナムの投資環境、税務の全般についてお話を伺いましたが、インタビューの後半では、ベトナムに投資している日系企業が税務上直面している問題点や恩恵及び投資にあたってのアドバイスについてお話を伺いました。
問4.日系企業はベトナムに進出する際に税務上のどんなメリットとデメリットがあるのかご教示いただけますか。
ベトナムと日本の両国政府は長期及び安定的な協力関係を持っています。2002年からベトナムと日本は信頼・安定・長期的なパートナーという関係を築いています。両国の関係は外交関係を結んだ時から現在に至るまで一番良好な時期にあり、高レベルのリーダーと各省庁の意見交換等を頻繁に行う状態にあると認識しております。
日本は常にベトナムにとって最も重要な経済パートナーであり、ベトナムODAの3分の1を占める最大のODAスポンサーとして知られています。その様な背景の中で、ベトナム政府は日本企業に対してベトナムへの投資の一番有利な条件を提供したいと考えています。
政府側の努力に加えて、ベトナム人 はそもそも日本政府の支援に感謝し、日本人について日本の国民性である高い規律、勤勉さ、商品の高品質、信頼性の高さ等を高く評価していますので、これらは日系企業がベトナムに投資する時に有利な点になると言えるでしょう。また、ベトナムといえば、若い人材が多い事、比較的にリーズナブルな人件費である事、豊富な原材料等は日本の投資家に対して有利な点だと考えられます。
その一方、ベトナムに投資する際に日本企業はまだ多くのDisadvantageにも直面しています。まず、ベトナムの行政手続、または働き方は日本ほど速く、便利、透明性はありません。土地、計画、インフラに関する規定、行政手続はまだ複雑であり、法律及び政策環境は投資家の期待を満たさない等を挙げられます。労働力、特に高技能労働者の質はまだ不十分であり、ベトナム労働者・外国人労働者の強制社会保険の支払・受領の措置にはまだまだ合理ではない点が存在しています。そして、国内法等に整合していない投資許可書であるとされ投資案件に対する優遇税制を享受するための手続を行う際に問題に直面した企業もありました。ベトナム商工会議所の調査によれば投資・土地の手続、関税・税務申告を行った際に便宜を図ってもらうためのコストがまだ発生しているようです。
ベトナム政府、財務省、税務総局と地方税務当局は、在ベトナム日本大使館、在ベトナム日本商工会議所及び日系企業に対して、コロナによって引き起こされた困難を企業が克服し、状況が安定し、さらに発展するため、困難や障害を取り除くことに焦点を当てようとしています。同時に、外国の投資家、日本の投資家にベトナムへの投資を継続するように呼び掛けています。
問5.最後になりますが、現在の状況でベトナムに投資している日系企業とベトナムへの投資を検討している日本投資家に対してアドバイスをいただければ幸いですか。
まず、ベトナムに投資している日系企業についてですが、ベトナム政府、各省庁等は常に日本企業の投資・経営活動に係る有利な条件を整えています。例えば、一般的な年次ビジネス対話会合の他、ベトナム政府は在ベトナム日本大使館と在ベトナム商工会議所と連携しながら、企業の問題等を把握し、解決策を迅速に提供しています。そして、国家管理機関である財務省、税務総局、関税総局等は、企業と対話するのをいとわないので、必要に応じて在ベトナム日本商工会議所経由で企業の自らの問題を相談し、解決策を探すのは一つの方法だと考えられます。
それに加えて、最近のベトナムの政策、特に税務政策・税務管理はかなり変更されています。納税義務については有利な変更もある一方、税務管理の効率を強化するための変更も見られます。例としては、金融機関に対して納税者の税番号に基づき口座情報を提供する義務を課す等のように税務当局と金融機関等の関係を強化したこと、外国法人・個人等が電子取引によりベトナムにおいて発生した収入に対する源泉徴収・納税義務を設けたこと等です。また、税務申告・納税期限・暫定納税等の一定の規定も変わり、特にコロナの影響で付加価値税・法人税等の複数の救済措置を適用するために一定の手続が必要な状況の中で、日系企業は自ら情報を調べるだけでなく、専門家経由で最新情報をアップデートすることを推奨します。ベトナム税理士協会は、会員を対象に有料で最新税務ニュースレータの配賦、メールによる問い合わせの対応等を行っていますので、必要であればこの会員制度をご利用いただけます。
また、ご存知の通り、ベトナムはCPTPPとベトナムEUFTA等の高い責任を伴う自由貿易協定をすでに締結しましたので、ベトナムが魅力的な投資先となり、外国(特に日本)の投資家のグローバル及び地域のサプライチェーンの再構築・変更戦略に沿った高度な国際的基準に従った投資環境を整える事を目指しております。したがって、日本の投資家もぜひこの機会を活用してほしいです。
次に、ベトナムへの進出を検討している日本企業に対してですが、ベトナムの人口は1億人ほどであり、日本製品は人気があり、約6億5千万人が住む人口の多い東南アジア諸国に位置しているので、ベトナム市場はベトナムに投資を検討している日本企業の事業拡大の目標を達成するのに十分な規模だと考えられます。その他、ベトナムの国会は、投資法、企業法、公民連携(PPP)投資法について企業を対象とし複数の透明性、利点、投資優遇等となる改正を行いました。したがって、日本の投資家はベトナムに新規投資或いはサプライチェーン多様化の対応策としてのベトナム投資を検討することをお勧め致します。
ベトナムへ新規投資する際に、どんな分野に投資可能かどうか、ベトナムの習慣、働き方、投資効果、または原材料の供給、人材、顧客層、消費市場等を事前に調べるのは欠かせないと考えられます。例えば、人材について、重要なポストは、当初は日本人とベトナム人で担当するが、徐々に仕事の品質を維持したまま人件費を削減するため日本・外国駐在員の業務をベトナム人に任せられる可能性があるか等を検討する必要があります。
新規投資であれば、事業活動の分野に適切な事務所の所在地を選択する必要があります。例えば、便宜的に、最初は既に日系企業が多数進出している、または日本語でサポート可能な工業団地等に事務所を設置することも選択肢となります。
更に、ベトナムに投資する際に、活動許可を取得してから事業活動に係るベトナムの法律について理解するのは必須です。特にベトナム国内税法、日越租税条約、輸出入活動、税関手続に係る規定等です。例えば、ベトナムでは納税者のすべてが個人・法人にかかわらず税番号を取得した上で、税務申告・納税・年次申告等の手続を行っています。
日本の投資家の皆様がぜひベトナムに投資するのをお待ちしております。投資検討の過程で税務政策・税務管理に係る内容についてご相談がございましたら、ベトナム税理士協会また私個人も喜んでサポートいたします。
TKAO:お忙しい中、書面のインタビューにご対応いただき、グエン・ティ・クック氏には誠に感謝しております。これからベトナムに進出する、或いは既に進出している日系企業にとって、異なる角度からの大変参考になる情報だと思います。幣事務所のベトナムデスクも日系企業のベトナム進出を支援する際にベトナム税理士協会の協力を引き続きいただければ幸いです。何卒どうぞ宜しくお願い申し上げます。
「寄稿」新環境保護法の概要と今後の動向
弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所(https://uryuitoga.com/)
1.2020年環境保護法の制定
ベトナムの環境保護法令でも特に重要な環境保護法は、急速な経済発展による環境への影響が深刻化するに伴い、1993年に最初に公布され、その後2005年、2014年に改正され、規制が厳格化される等してきた。そして、現行の2014年環境保護法(Law No. 55/2014/QH13)に代わる2020年環境保護法(Law No. 72/2020/QH14、以下「新法」という。)が2020年11月17日に制定され、新法は、2021年2月1日より施行されている予備的環境影響評価の評価基準の箇所を除き(新法第170条第2項、第29条第3項)、2022年1月1日より施行されることとなっている(新法第170条第1項)。そこで、本稿において紙面の許す限り、新法における若干の改正点と今後の展望を取り纏めてみたい。
2.新法における若干の改正点
(1) 投資プロジェクトの分類
新法は、事業の規模等の一定の要素を踏まえ、投資プロジェクトが環境に悪影響を及ぼすリスクに応じて、リスクが高い順にI群、II群、III群、IV群という分類を設定した(新法第28条第1項ないし第7項。さらに、現在制定に向けて準備が進められている環境保護法の施行を指導する議定の草案(※1)の第24条には、投資プロジェクトの分類に関する詳細な規制も含まれている)(※2)。そして、この分類に応じて必要となる手続が異なる仕組みとなっている。
例えば、I群に該当する投資プロジェクトについては、予備的環境影響評価及び環境影響評価を実施する必要があり(新法第29条第1項、第30条第1項第a号)、II群に該当する投資プロジェクトの一部については、環境影響評価を実施する必要がある(新法第30条第1項第b号)等の差異が設けられている。なお、新法の下では、環境影響評価報告書は電子ポータルで公表される点にも留意されたい(新法第37条第5項)。
(2) 予備的環境影響評価
新法は、環境影響評価(※3)に先行し、環境影響評価よりも簡易な予備的環境影響評価制度を新設し(※4)、投資家及び国家当局のお互いのリソースを無駄にしない仕組みに変更した。すなわち、改正前の環境法は、環境影響評価の結果作成された報告書を投資方針承認(※5)の申請書類として必要としていた(2014年環境法第25条第2項第a号)。しかし、環境影響評価には多額の費用がかかるところ、投資プロジェクトが承認されていない状態でそのような多額の費用をかけることは投資家にとってのリソースの無駄であり、さらに国家機関にとっても、今後実施されるのか未定の投資プロジェクトの環境影響評価報告書を承認しなければならないという点でリソースの無駄を生じさせる事態になっていた。
この点につき、新法では、投資方針承認において必要となるものは、環境影響評価よりも簡易な予備的環境影響調査とし(2020年投資法第75条第3項第a号、新法第29条第1項)、他方で、環境影響調査書は、投資プロジェクトの実施までに承認決定されれば良いとすることで(2020年投資法第75条第3項第a号、新法第36条第1項)、上記のようなリソースの無駄を生じないようにする仕組みに変更した。
(3) 環境ライセンス制度の導入
新法は環境ライセンス制度を導入した。環境ライセンスとは、事業活動に携わる組織又は個人に対し、所轄官庁が発行する文書であり、当該組織又は個人が、法律で定められた環境保護要件に従って、環境中に廃棄物を排出し、生産材料として輸入した廃棄物等を管理することを許可するものをいう(新法第3条第8号)。そして、上記(1)で記載したI群、II群、III群に属する投資プロジェクトのうち、環境中に処理しなければならない廃水、粉塵及び排気ガスを発生させ、又は正式に操業を開始する前に廃棄物管理に関する規制に従って管理しなければならない有害廃棄物を発生させるもの等については環境ライセンスを取得する必要がある(新法第39条第1項)。なお、新法の施行日前に正式に操業を開始している場合には、一定の場合を除き(※6)、新法の発効日から36ヶ月以内に環境ライセンスを取得しなければならない(※7)。
ライセンス発行に要する期間は長いもので、十分な申請資料を提出してから45日を超えないとされている(新法第43条第4項第a号)。しかし、ベトナムでは法定期間を遵守しないことも多々あるため、環境ライセンスの取得対象となる投資プロジェクトを実施する場合には、それ以上の期間を要する可能性を織り込んでおいた方が安全と思われる。なお、環境ライセンスを取得する必要がない場合であっても、廃棄物が生じてしまう投資プロジェクトを実施している場合には、環境登録という一定の手続きを実施しなければならないことにも留意されたい(新法第49条第1項)。
3.終わりに
新法における改正点は多岐にわたり、上記で言及した以外にも存在する。また、本稿執筆時点において新法の詳細を定める議定が作成段階であり、詳細がどのような内容になるのかなど、今後の動向を注視することが必要不可欠である。さらには、ベトナムにおいては、大気汚染等の環境問題が大きな社会問題となっており、規制の変更及び規制の追加が今後なされることも予想される。そのため、環境法令についても、皆様がベトナムに進出し事業運営する際には、ベトナムでの最新の実務状況を十分に把握することが望ましいといえる。
(※1)http://vibonline.com.vn/wp-content/uploads/2021/07/Du-thao-Nghi-dinh-quy-dinh-chi-tiet-Luat-BVMT-2020-noi-dung-chinh.pdf
(※2) 2014年環境保護法の下でも、Decree No. 40/2019/ND-CP等により、一定の分類はなされていた。しかし、環境への影響に応じた分類にはなっていなかったため、環境への悪影響が乏しいと思われる投資プロジェクトについても環境影響評価が必要となり得る(例えば環境影響評価の対象となる類型を規定した同Decree付録2の第10番には「エンターテインメントエリア」が規定されており、環境への悪影響が生じる可能性が乏しいと考えられるゲームセンターやカジノ事業も含まれ得る規定となっていた。)といった問題点があった。
(※3) 環境影響評価とは、投資プロジェクトの環境への影響を分析し、評価し、特定し、及び予測し、並びに環境への悪影響を低減する措置を講じるプロセスをいい(新法第3条第7号)、予備的環境影響評価とは、事前実行可能性調査の段階又は投資プロジェクトの実行を提出する段階において、投資プロジェクトの主たる各環境問題を検討し、特定することをいう(新法第3条第6号。
(※4) 冒頭に記載したとおり、予備的環境影響評価の評価基準に関する規定(新法第29条第3項)は、新法の他の規定とは異なり、2021年2月1日から施行されている。これは、建築法(Law No. 50/2014/QH13(Law No. 62/2020/QH14により修正補充)が、2020年の改正において、一定の建設投資プロジェクトを策定するのに必要な建設投資の事前実現可能性調査報告書の内容として予備的環境影響評価を含めており(建設法第53条第6項)、さらに、2020年投資法(Law No. 61/2020/QH14)が一定の投資プロジェクトを実施するのに必要な投資方針承認の申請書類として予備的環境影響評価を規定しているところ(投資法第33条第1項第d号)、これらの法律は既に施行されており、これらの法律との整合性を確保するため、新法の他の既定よりも早く施行されたと考えられている。
(※5) 通常の投資プロジェクトよりも規模の大きい一定の投資プロジェクトについて、国会、政府首相又は省級人民委員会の承認を要する制度である。投資方針承認の対象となっている投資プロジェクトは、国会、政府首相又は省級人民委員会の承認を得てから、投資登録証明書(IRC)の発行手続に進むことになる。
(※6) 具体的には、管轄当局が環境保護作業の完了証明書を発行している場合がこれにあたる。
(※7) ただし、新法の施行日前に環境保全工事完了証明書、環境基準適合証明書、有害廃棄物処理許可証、排水許可証等の一定の許可証を取得している場合には、その許可証の期限まで(無期限の場合には新法鵜の施行日から 5 年間)、当該許可証を環境ライセンスとして引き続き使用することができる(新法第 42 条第 2 項第 d 号)。